BPSDとは

BPSDは認知症患者にしばしば生じる、知覚認識、思考内容、気分、行動に関する障害による症状と定義されています。

BPSDの正式名称は「Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia：認知症の行動・心理症状」です。

BPSDはすべての認知症患者に生じるわけではなく、症状の現れ方は個人の気質や環境にも影響を受けるとされています。

BPSDをわかりやすく説明すると、次の要素が相互に作用して起こる認知症に特有の症状であると考えると良いでしょう。

• 認知機能の低下
• 個人の性格
• 生活空間などの環境
• 周囲の人の対応など

BPSDの具体的な症状は、次で詳しく解説します。

BPSDの症状

認知症の症状は、BPSDと中核症状の2つに分かれており、これまではBPSDを周辺症状と呼んでいました。

BPSDは中核症状によって引き起こされる症状で、認知症の進行や身体の不調、環境などが原因となって現れます。また、複数の症状が同時に現れる場合もあります。

次の表は、BPSDの行動症状と心理症状の代表的な具体例をまとめたものです。

例えば、記憶力・判断力が低下している（中核症状）認知症患者が、いつも置いてある場所に財布がないという状況になったとします。

「どこかに置いたかもしれない」と考えたとき、家の中を探すという行動にうつすでしょう。財布を探して部屋中をうろうろし、さらに記憶力や判断力の低下から「財布がないのは誰かが盗んだ（ものとられ妄想）」と考える可能性があります。

その際に叱ったり否定したりすると、認知症の方の不安やイライラが募り、興奮や怒りの反応をみせる場合や意欲低下や不眠などが心理症状として現れます。

中核症状

中核症状には、認知機能の低下に関連しており、次のような症状がみられます。

• 記憶力の低下
• 場所や時間がわからなくなる（見当識障害）
• 言葉が出にくくなる（失語）

BPSDが個人の気質や環境に影響を受ける症状なのに対して、中核症状はほとんどすべての認知症患者に現れる点が特徴です。

例えば、記憶力の低下では、ご飯を食べたのに「食べていない」と言うことがあります。また、見当識障害では、使い慣れた道でも迷子になるもので、失語は人の顔や名前を忘れて「あれ」「それ」などの言い方が増えることです。

このように認知症は中核症状・個人の性格・環境の3つが相互に関係して現れる症状といえます。

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BPSDがもたらす影響

BPSDの症状が増悪すると、日常生活や介護にさまざまな影響を与えます。以下から、BPSDがもたらすおもな影響を2つの側面から解説します。

介護負担の増加

BPSDが増悪すると、介護拒否につながることがありますが、これにはさまざまな理由があります。

• 心理症状である「妄想」が強くなり、薬の中に毒が入っていると思い込み、服用を拒否する
• 行動症状である「暴力」が強くなり、介護者を叩く

このように、心理症状や行動症状の進行が原因で、介護負担が大きくなることがよくあります。

特に暴言・暴力などの攻撃、抑うつ症状、睡眠障害が介護者に与える負担は大きいといえるでしょう。

日常生活動作能力の低下

医療現場では、点滴や治療のために安静が必要な場合があります。しかしBPSDにより点滴を自己抜去するケースがみられます。

このような行動に対処するため、身体拘束をせざるを得ません。

また、日常生活においては、介護拒否により、必要な生活動作ができず、ベッドで過ごす時間が長くなります。

身体活動量が低下すると筋肉が衰え、廃用症候群となる可能性も高まります。このようにして、日常生活動作能力が低下すると考えられます。]

施設入所リスクの増加

BPSDが悪化すると、日常生活動作能力の低下や介護負担の増加が顕著になります。

そのため、在宅生活を継続することが困難になり、特別養護老人ホームといった施設入所になるリスクが増加します。

施設入所は、患者の安全を確保し、介護者の負担を軽減する手段となります。その一方で、集団生活が苦手な方にとっては、新しい環境への適応が必要となるため、慎重に検討するようにしましょう。

BPSDが起こる理由

BPSDが起こる理由は、おもに次の3つの理論が提唱されています。

学習理論

学習理論では、BPSDでみられる行動は、環境とやり取りのなかで学習された行動だと捉えられます。

つまり、何らかの刺激→行動→結果の順に行動があらわれるというものです。

例えば、大きな音（刺激）がしたときに、誰かが襲ってくるという妄想をします。そのため、落ち着かない状態になり（BPSD行動）、誰かに暴言や暴力をふるう（結果）といった現象が起こります。

アンメットニーズモデル

アンメットニーズモデルでは、BPSDは認知症患者が自らの欲求を適切に伝えられず、それによる欲求不満やイライラから生じると考えられています。

アンメットニーズは「満たされていない要求」を意味し、例えば「水を飲みたい」という欲求に対して、以前は「水」とひと言言えば近くの介護者がそれに応えて水を渡していたでしょう。

しかし、認知症が進行すると言葉がうまく使えなくなり、欲求を適切に伝える方法を見失ってしまうのです。その結果、本人の欲求が十分に満たされずに「水」を求めて室内を移動し、周囲からは「徘徊」と捉えられてしまうことが考えられます。

Progressively Lowered Stress Threshold（PLST）

PLST（Progressively Lowered Stress Threshold）理論では、BPSDは認知症患者のストレス処理能力がの低下することに起因すると捉えられています。

健康な人は日常生活でストレスを感じても、リフレッシュや適切な対処法でストレスを適切に処理できます。

しかし認知症患者の場合、ストレスを適切に処理することができずに、ささいな出来事でもイライラすることが増え、不穏な行動につながることがあります。

BPSDの治療法

BPSDの治療方法には、薬を使わない方法（非薬物療法）と薬を使う方法（薬物療法）の2種類があります。

以下では、それぞれの方法について解説します。

薬を使わない方法（非薬物療法）

BPSDの治療は、原則非薬物療法から始められます。

非薬物療法は、認知症の方の残っている能力を引き出し、運動や作業・活動を介して機能を最大限に活かす方法です。

特に昔好きだった活動は楽しく取り組めることが多く、継続的な活動をすることで、昼間の覚醒時間の確保や身体活動量の維持、昼夜逆転の予防となり、生活能力の維持に効果があることが期待されます。

非薬物療法には、例えば昔なつかしい写真を用いて過去を回想する「回想法」や、音楽を聴いて楽しむ「音楽療法」などがあります。

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薬物を利用する方法（薬物療法）

下記の3つの状態のうち1つでも当てはまる場合、薬物療法の開始が検討されます。

1. 大うつ病の状態（希死念慮の有無を問わない）
2. 他者に危害を加える可能性が非常に高い妄想
3. 自分自身や他者を危険にさらす原因となる攻撃性

引用：日本内科学会雑誌第107巻第3号「認知症疾患診療 ガイドライン2017」

これらの状態に対して薬を使うことで、認知症患者自身が落ち着いて生活ができるようになり、介護者にとっては、介護負担が軽減するといった効果が期待されます。

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BPSDへの対応方法

BPSDへの対応は、BPSDの症状の理解と環境調整が重要です。

BPSDは認知症による脳の変化が原因であり、本人の性格やわがままによるものではないことを理解しましょう。

BPSDの症状は、不安や混乱から生じることが多いため、安心できる環境を整えることが大切です。例えば、騒音といった刺激を減らし、落ち着ける空間を作りましょう。

また、生活リズムを整えることも有効です。規則正しい食事や睡眠は、症状の安定につながります。日中は適度な運動や活動を取り入れ、夜は静かに過ごせるように工夫しましょう。

言葉がけは穏やかな口調でゆっくりとおこない、相手の言葉に耳を傾けることが大切です。指示を出すのではなく、共感的な言葉で接することで、安心感を与えられます。

BPSDへの対応は、根気と工夫が必要です。症状が改善しない場合や、対応に困った場合は、専門家へ相談しましょう。

BPSDの予防方法

BPSDは介護者の負担を増加させ、在宅生活を維持することが難しくなります。

治療方法はありますが、何よりも予防をすることが大切です。

BPSDを予防する際のポイントは以下のとおりです。

• 認知症患者の心情を理解する
• 周囲が患者の症状に早く気づく

認知機能が低下すると、状況に合わせた適切な行動を取ることが難しくなります。かしたいと思ってもうまく表現できずに、それがBPSDとして現れることがあります。

このような状況を防ぐためには、介護者は常に「相手の気持ちを理解しよう」「日ごろから注意深く様子を観察して要求に気がつく」ように心がけると良いでしょう。

「徘徊」というBPSDを例に考えたとき、その理由は人によってさまざまです。

• ある方は健康のために散歩に行こうとしている
• ある方は買い物に行こうとして目的地にたどり着かなくてウロウロしているなど

このように、一人ひとりの行動する意味を理解することが、重要です。

また症状が現れる前には前駆症状と呼ばれる「特定のパターン」を示すことがよくあります。例えば、夕方17時からソワソワし始めるといった行動がみられた場合、それは散歩に行きたいサインかもしれません。

一緒に散歩に行くといった対応をすることで、徘徊の症状の予防につながるでしょう。

BPSD介護で役立つ介護用品

ここからはBPSDに対して役立つ介護用品を紹介します。

徘徊わかーる6900

「徘徊わかーる6900」は、利用者がセンサーの前を通ると受信機に知らせが届き、画面を通じて状況を確認できる介護用品です。BPSDが起こる前には、落ち着きのないソワソワした状態が、みられる場合があります。

事前に行動を把握することで、BPSDが起きる前に対応できるようになり、BPSDを予防することが期待できます。

ヤマシタでは、さまざまな介護用品をご用意しております。
介護を受ける方にあわせた商品のご相談も可能ですので、お気軽にお問い合わせください。

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まとめ

BPSDは、「認知機能の低下」「個人の性格」「周囲の人の対応」「生活空間・環境」などが相互に作用して起こる、認知症に特有の症状と考えられています。

BPSDが起こる理由には、現在3つの理論が提唱されており、満たされない欲求やストレスなどが引き金になると捉えられています。

BPSDは、介護者にとって大きな負担となるため、何よりも予防が大切です。介護を受ける方の欲求やストレスを軽減し、BPSDを予防するために、介護用品の使用を検討してみてはいかがでしょうか。