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片麻痺の原因や症状とは?改善に役立つリハビリや福祉用具を紹介
片麻痺は、脳卒中など脳の血管障害によって脳細胞が損傷し、体の左右どちらかに麻痺が起こることをいいます。
体の左右どちらかの手足が思うように動かなくなったり、感覚が鈍くなったりするため、日常生活に支障をきたします。
片麻痺は、本人だけでなく介護する家族にとっても大きな負担となる、心身ともに辛い症状です。
この記事では片麻痺とは何かを解説するとともに、片麻痺の介護を行ううえでの注意点や便利な介護用品を紹介します。
片麻痺とは?原因と症状
片麻痺とは、体の左右どちらか片側が麻痺することをいいます。
手足が思うように動かないだけではなく、筋力が低下するため、体のバランスを崩しやすくなります。
また、手足だけではなく口や顔面にも片麻痺の症状が出るため、うまく食べられなくなったり、スムーズに話せなくなったりすることもあります。
片麻痺の原因
片麻痺の原因の多くが、脳血管の障害によって起こる脳梗塞や脳出血です。
脳血管障害の背景には、高血圧や高コレステロールによる動脈硬化などの生活習慣病があります。
脳血管障害は、適切な運動をしたり、減塩や低脂肪など食事に注意したりすることで、予防が可能です。
また冬場は、急激な寒暖差による血圧の急上昇で心臓や血管の疾患が起こるヒートショックが原因となって、脳卒中を発症するリスクが高まります。
ヒートショックが起こりやすいお風呂や脱衣所、トイレは、あらかじめ暖めておくことでヒートショックの予防になります。
片麻痺の症状
片麻痺は、右脳に損傷がある場合には体の左側に麻痺(左麻痺)が生じ、左脳に損傷がある場合には体の右側に麻痺(右麻痺)が生じます。
右脳と左脳では脳の働きが異なることから、右麻痺と左麻痺では症状が異なります。
右麻痺の場合
主な症状は、右半身の運動障害や感覚障害です。腕や足が思うように動かなくなったり、感覚が鈍くなったりします。
また、話す、聞く、読む、書くといった言語機能に障害が現れ、失語症という症状が出ます。計算能力や考える能力が低下したり、焦りやすくイライラしたりする症状が現れる場合もあります。
半側空間無視と言って、麻痺している右側の視野が半分欠ける症状も出ることがあります。
左麻痺の場合
主な症状は、左半身の運動障害や感覚障害です。右麻痺と同じように、麻痺側の左腕や左足が動かしにくく感覚が鈍ります。麻痺側の左視野が欠けた半側空間無視も起こることがあります。
失認と性格変容といった症状も現れる場合もあります。
失認とは、電話が鳴ってもそれが電話だとわからない、味を感じてもそれが何の味であるかがわからないなど、ものを識別する能力が失われる症状です。
性格変容は、優しい穏やかな人が怒りっぽくなったり、わがままになったりする変容です。
左右どちらの麻痺も半側空間無視が起こるため、自分とものの位置の距離感がわからなくなり、うまくものをよけることができずにぶつかってしまうなど、転倒、骨折が起こりやすくなります。
高齢者の転倒や骨折は寝たきりとなるリスクが非常に高くなるため、生活スペースは空間を広く取り、手すりを設置するなど転倒を防止する環境作りに努めましょう。
見当識と同義にあたる
脳卒中によって片麻痺が生じた場合、同時に見当識障害を発症することもあります。
脳梗塞によって脳の血管が詰まると、詰まった血管の近くにある脳は損傷によって機能しなくなります。
血管が詰まった部分によっては、見当識障害が出現します。
見当識障害とは、記憶力や認識力、判断力が低下する症状で、具体的には以下のような症状が見られます。
- 今、自分が何をしているのかわからなくなる
- 自分がどこにいるのかわからなくなる
- 人の名前や顔がわからなくなる
- ご飯を食べたかどうかがわからなくなる
片麻痺に効果があるリハビリ方法
片麻痺がある場合、どのようなリハビリが行われるのでしょうか。
片麻痺に効果があるリハビリ方法を紹介します。
発症直後のリハビリ
脳血管障害の発症後、48時間以内にリハビリを開始することが多くみられます。
長期間にわたり体を動かさずに安静状態が長く続くと、身体機能が低下し、うつや見当識障害など精神状態にも影響を及ぼしたりする廃用症候群を発症するリスクが高くなります。
そのため現在では、発症後できるだけ早い時期からリハビリを行うことが推奨されています。
発症直後は病状も安定しない時期のため、体調に十分留意してリハビリを行う必要があります。
発症直後には、ベッドの角度を少し上げたまま生活する、麻痺の起こりやすい部位を少しずつ動かすなど、体に負担をかけない範囲でのリハビリをします。
復帰に向けたリハビリ
在宅復帰に向けて日常生活を送るためのリハビリが行われます。
立つ、座る、歩く、食事をするなど、退院後の生活を見据えて、日常生活動作がスムーズに行えるようになることが目的です。
障害に応じて、ものをうまく飲み込めなくなる、うまく話せなくなる、記憶機能に障害があるなど、症状に応じたリハビリも行われます。
機能向上を目指すリハビリ
退院した後も継続してリハビリが行われます。
退院後のリハビリは、体の機能向上が目的です。
歩ける距離を長くしたり、杖を使って外に出たりなど、自分で動ける範囲を広げていくためのものです。
リハビリによって筋力や身体機能が回復しても、退院後に何もしないままだと、体の機能はどんどん低下します。
退院後、家族はつい手を貸してしまいがちですが、日常生活のすべてがリハビリです。
できることはどんどん自分で行うように、見守りながら促しましょう。
自宅で実施するリハビリ
自宅で簡単にできるリハビリを紹介します。
足のリハビリ
- イスに座る
- 片足をゆっくり持ち上げる(膝を曲げても構いません)
- 足を持ち上げたまま10秒ほどキープ
- ゆっくり足をおろす
- 反対側も同様に行う
腕、手のリハビリ
- 肩の高さまで腕を上げて、できるだけ肘をまっすぐに伸ばす
- 肘を伸ばしたまま、握りこぶしを作る
- 5秒ほどかけてゆっくりと手を開く
- 5秒ほどかけてゆっくりと手を握る
家族でじゃんけんをしたり、テレビ体操を行ったりするのも良いでしょう。
片麻痺のリハビリにおすすめの介護用品
片麻痺のリハビリに役立つ、おすすめの介護用品を紹介します。
カルティマ 自走
カルティマは、片麻痺患者におすすめの車いすです。
片方のブレーキを引くだけで、両輪のタイヤにブレーキがかかる仕様です。
ひじ掛けやフットレストを跳ね上げられるため、ベッドから車いすの移乗がスムーズになります。
さらに、軽量タイプの車いすなので軽い力で動かすことができ、片麻痺の方本人が自分で動かす際にも、介護者が押す際にも、負担を軽減できます。
コンパクトタイプなので、保管にも場所を取らない点もメリットです。
軽量でコンパクトでありながらも、非常に頑丈な作りなので、安心してご利用いただけます。
アルコー1S-T型
麻痺の状態や、身体の状況に応じて速度調整が可能な歩行器です。現状の体力や運動機能に応じて歩行ができるため、恐怖心なく安全に利用できます。
コンパクトサイズなので自宅でも利用しやすく、幅78cm以上の廊下であれば回転も可能です。
具体的な片麻痺のトレーニング方法とは?
具体的な片麻痺トレーニングの方法を紹介します。
片麻痺トレーニングは、立つ、歩く、寝返りを打つなど、日常生活を送るうえで必要な動作をスムーズに行い、社会参加を目指すことを目的として行われます。
寝返りの片麻痺トレーニングの方法
- 麻痺していない側の足で麻痺している側の足を引っかけるようにして両膝を曲げます。
- 麻痺していない側の腕で麻痺している側の肘の部分を持ちます。
- 膝を倒して麻痺が話の肘を引き寄せるようにして寝返りをします。
背中に軽い傾斜があると、寝返りしやすくなります。背中に大きなクッションを詰めて、背中を少し傾けた姿勢を作りましょう。
介護者は、自力で寝返りをするよう声をかけながら、背中に手を添えて足りない力をサポートします。
大きなクッションを使ってのトレーニングに慣れてきたら、だんだんクッションを小さくして、寝返りをする角度を大きくしていきましょう。
起き上がりの片麻痺トレーニングの方法
- 下肢をベッドの縁へと移動させます。
- 下肢を床へと下ろしながら、肘で体を支えつつ上半身を起こしていきます。
- 上半身を少し前かがみにしつつ起き上がります。
- 麻痺している側をしっかりと前に出して、麻痺していない側の肘を伸ばします。
- まっすぐと座ります。
片麻痺があると骨盤が開いてしまったり、肩が背中側に開いてしまったりするので、スムーズに起き上がれません。起き上がりの際は、介護者はあごを引くように声をかけつつ、介護者の右手を肩に沿え、肩と耳が同じラインにそろうように姿勢を整えます。
介護者の左手は骨盤が開かないように腰骨のあたりに手を添え、背中を丸めて起き上がるように声をかけます。
片麻痺トレーニングの流れ
片麻痺が起きたら、廃用症候群の予防のため、なるべく早くリハビリが開始されます。
長い間体を動かさず寝たきりになっていると、関節が固まってしまい、体の機能や筋力はどんどん低下してしまいます。
発症直後の片麻痺トレーニングは、ベッド上での軽い運動から始めます。
無理なく関節の動きを良くし、体全体の血流を促しながら機能の回復を目指すことが大切です。
病状の安定や体力と筋力の回復に従って、しだいにベッドサイドに座る、立つ、歩くなど、行動範囲がどんどんと広がっていきます。
筋力をアップさせるトレーニングはもちろん重要ですが、なめらかに体を動かすためには、バランス感覚をつかさどるトレーニングも重要です。
早期から積極的に体を動かすことは、脳の神経を活性化させ運動機能の安定につながります。
リハビリが進むにつれて、杖などの補助具を使用しながら、自分の身の回りのことを自分で行えるようになります。
片麻痺トレーニングの注意点
自分の体が思うように動かなくなることや、今までできていたことができなくなることは、片麻痺患者にとって非常につらいことです。
リハビリによる痛みや疲労、ストレスが原因でリハビリに積極的に取り組めないこともあります。
逆に、以前のように体が動かないことを自分の中で認められずに、片麻痺発症前と同じように動こうする方もいます。
頑張りすぎたり自分の現在の能力を過信したりすると、転倒や事故の原因になります。
適宜、入院先のスタッフにも相談し、メンタルケアもしながらリハビリを進めていきましょう。
片麻痺が抱えるリスク
片麻痺があると、どのようなリスクがあるのでしょうか。
ADLの低下
ADLとは、立つ、歩く、食べる、排せつする、着替えるなど、日常生活を送るために最低限必要な生活動作のことです。
片麻痺になるとADLが低下し、自分の身の回りのことができなくなります。
今まで当たり前にできていたことができなくなることは、患者本人にとって非常に大きなストレスとなり、一時的なうつ状態へとつながることもあります。
片麻痺発症後のリハビリは、ADLを自立できるようになることが目的です。
関節拘縮の発生
片麻痺があると、関節が固まって動きにくくなる関節拘縮が発生します。
特に完全麻痺(完全に運動や感覚の機能が喪失した状態)となると、自分では麻痺側を動かせなくなるので、関節拘縮が起こるリスクは非常に高くなります。
完全麻痺でなくても、発症直後にベッドに寝たきりとなり体を動かさない時間が長くなると、関節拘縮を起こす可能性があります。
関節拘縮はADLが低下するため、活動性の低下から廃用症候群を発症することもあります。
一度関節の拘縮が発生すると、改善までに多くの時間が必要です。
リハビリにおいても痛みを伴うため、患者本人にとっても苦痛な時間となってしまいます。
発症からなるべく早い段階で軽い運動やマッサージを行い、関節拘縮を予防することが重要です。
転倒や転落の可能性
片麻痺は体の片側がスムーズに動かなくなるため、体のバランスを崩しやすい状態です。
転倒や転落の可能性が高くなり、骨折やケガにつながります。
また、脳卒中の影響で視野が狭くなり、障害物に気づきにくくなってしまいます。
通路や床に余計なものは置かないようにして、事故やけが起こりにくい環境を整えましょう。
片麻痺による転倒リスクの事例
片麻痺による転倒が起こりやすい場所、タイミングの事例を紹介します。
入浴時の転倒
浴室は水で滑りやすいことから、入浴時は非常に転倒が起こりやすいタイミングです。
浴槽の出入りは立位で行うことが多く、浴槽の高さの問題や膝関節の拘縮の問題からバランスを崩しやすく、転倒が起こりがちです。
浴槽に手すりを設置したり、浴槽内に滑り止めのゴムマットを敷いたりして、安全に浴槽に入れるように環境を整えましょう。
また思った以上に湯温が高いと、驚いて体のバランスを崩してしまうことがあります。お湯の温度はやや低めに設定をしておくと安心です。
もし熱いお湯が好みの場合には、湯船につかりながら足し湯や追いだきで温めましょう。
片麻痺の場合、利き手・利き足を支えに動作を行うため、手すりを設置したり介護者の導線に問題が無いかを注意したりすることが必要です。
浴室で移動を楽に行える介護用品としてシャワーチェアを紹介します。
ユクリア ミドルSP回転おりたたみN
座面が回転するので、浴槽からイスへの移動もスムーズです。360度回転しますので、麻痺が左右どちらにあっても使用できます。
折りたたみができるので、収納も便利です。
ご不明な点がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。
営業所は安心の365日体制。
お客様のご相談、ご要望にスピーディーに対応します。
メールは365日24時間受付
受付時間 9:00~18:00 (土日祝年末年始を除く)
ベッドから移動する際の事故
ベッドから車いすに移る際に車いすからずり落ちてしまうなど、ベッドからの移乗も転倒が起こりやすいタイミングです。
車いすのブレーキがかかっていなかったり、フットレストが下がったままであったりなど、車いすの準備不足で事故が起こるケースが多くみられます。
車いすへの移乗の際には、以下の3点を確認しましょう。
- しっかりとブレーキがかかっているか
- 座面がしっかり開いているか
- フットレストが上がっているか
介護に慣れてくると、ついつい毎回のチェックを忘れがちになります。
しかしそのようなタイミングこそ事故は起こりやすいため、注意が必要です。
車いすの座面がツルツルとしていて、車いすに座った後に座面からずり落ちて転倒してしまうケースもあります。
座面に滑り止めを敷いておくのも良いでしょう。
また介護する人の疲労が溜まっていると、介護中の事故が起こりやすくなります。
家族みんなで協力し合える体制作りはもちろんのこと、介護用品の積極的な活用や自治体のサポートも利用しながら、介護する人の体調も大切にしましょう。
以下では、ベッドから車いすへの移乗をサポートする福祉用具を紹介します。
イージーグライド
座ったままでベッドや車いすへの移乗をサポートするスライディングボードです。
滑りやすい素材でできているので、介護者の身体的な負担を大きく軽減できます。
無理な力を必要とせず、介護者にとっても、介護を受ける方にとっても快適に移動・移乗することが可能です。
まとめ
片麻痺は脳の血管障害による脳卒中が原因で起こります。
脳の損傷が右脳にあるのか、左脳にあるのかによって、症状は異なります。
廃用症候群や関節拘縮の予防のため、発症から早い時期にリハビリが開始されます。
リハビリはADLの向上を目指して行われますが、以前とまったく同じ生活に戻れないこともあります。
自宅では転倒の危険性を考え、手すりを設置する、床にものは置かない、段差をなくすなどの環境を整えることが大切です。
片麻痺患者用の介護用品も活用しながら、自宅での介護を安全に行えるようにしていきましょう。
片麻痺患者用の介護用品を選ぶ際の困りごとや、購入、レンタル方法などについて、いつでもお気軽にお問い合わせください。
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受付時間 9:00~18:00 (土日祝年末年始を除く)
川口 晴美
看護師・助産師
助産師、看護師として総合病院にて産婦人科や消化器内科、内視鏡室で勤務。 退職後は開業助産師として地域での子育て支援を中心に活動。WEBライターとしても活動し、医療や子育てに関する記事を多く手掛けている。