現場から生まれる科学的介護 歩容解析AIでエビデンス強化
科学的介護システム「LIFE」の活用をはじめ、国は科学的介護、つまりエビデンスに基づく介護サービスの推進に力を注いでいる。一方で、現場でもさまざまなツールやアイデアを凝らし、エビデンスに基づいたサービス提供を目指す事業者がいる。
福祉用具大手のヤマシタ(静岡県島田市、山下和洋社長)も、歩容解析を行うAIを導入するなど、客観的なデータに基づく選定や提案をすでに始めている。
本連載では、現場発の「科学的介護」をテーマに同社の取り組みに迫る。初回は、同社で歩容解析AI活用の旗振り役を務める田丸義紘氏に話を聞いた。
1万3000人の利用者にトルト活用
当社では、昨年から全営業所で「CareWiz(ケアウィズ)トルト」(以下、トルト)を導入している。
スマホやタブレットで5mの歩行動画を撮影してアップロードすると、2分ほどでAIが解析結果をフィードバックしてくれるアプリだ。
対象者の骨格を抽出し、歩行の▽速度▽リズム▽ふらつき▽左右差――といった指標から、歩く力やバランス、転倒リスクなどが点数化される。
これにより、「この歩行器を使った方が、歩行スコアが高い」など解析結果を示して、よりエビデンスベースの提案ができるようになった。
トルトの活用は、現場の福祉用具専門相談員からボトムアップで提案を受け、まずは試験的に一部の営業所で利用を始めた。
トライアルの結果が、社内でも手ごたえを感じられたため、全営業所での導入を決めた。
現在では、ひと月あたり2000人程度の撮影を行っており、これまでに1万3000人の利用者へトルトを活用した提案やサービスを行ってきた。
利用者や多職種の納得感も得やすく
なんとなく「一本杖でいいかな」と言われる方に対して、一本杖と四点杖それぞれの歩行スコアや動画を比較してみてもらうことで「やっぱり四点杖のほうが安心そうだね」など、選定提案に対しての納得感がとても得やすくなった。
また、当社は半年ごとにモニタリングを実施しているが、ちょうど同一利用者の方に対して、トルトを使った二度目のモニタリング時期に入っている。
半年間で本人の歩行状態がどう変化したのか、我々自身も自らのサービスを検証できる。
福祉用具サービスに限らず、例えば「デイサービスの利用を休止してから歩行スコアが低下しているようです」といった情報は、ケアマネジャーやリハビリ専門職などの多職種にも重宝いただいている。
それから社内の教育や連携にもトルトが役立っている。私も10年間、福祉用具専門相談員として現場にいた。夕方のミーティングなどで、後輩社員から「今日は誰に、どのような提案をしてきたか」の報告を受けるが、口頭や文字ベースなので、必ずしも全てを汲み取ることができないこともあり、もどかしい思いをすることもあった。それが、トルトのように歩行動画や点数を共有することで、状態やそれに対する後輩の提案がどうだったかをこれまで以上に把握できるようになり、より適切な教育やアドバイスにつなげることができる。
引き継ぎも同様だ。当社は365日対応のため、現場の社員の多くはシフト制で勤務している。担当が休みの日に、急な問合せなどがあっても、別の者が円滑に対応できるよう利用者情報の一元管理や共有を行っている。さらに今回、トルトの客観的な情報が加わったことで、利用者の状態や経過をより適切に把握できるようになった。
地域からの依頼で健康教室などでもトルトを活用し、一般高齢者の方の歩行チェックを行っている営業所もある。歩行バランスがあまり良くない方に、歩行レポートを渡したところ、医療機関の早期受診に繋がった例もあった。エビデンスに基づくサービス提供が最大の狙いだが、さまざまな活用の場面があると実感しており、営業所間でも活用事例を共有しているところだ。
昨年5月、トルトを開発したエクサウィザーズ(東京都港区、石山洸社長)と合弁会社「エクサホームケア」を設立した。当社以外の福祉用具、他の介護サービス事業所でもトルトの導入を進め、数万人規模の歩行のビッグデータを解析し、エビデンスに基づくサービス提供の実践を支援していきたいと考えている(談)
田丸 義紘
提供元:シルバー産業新聞 2022.8.10