豊かさを届ける福祉用具サービス 「窓からの景色がみたい」
福祉用具大手ヤマシタ(静岡県島田市、山下和洋社長)の「豊かさを届ける福祉用具サービス」をテーマに現場の実践を紹介する本連載。365日対応の同社では終末期を担当する例も多い。奈良営業所の笠目妙子さんは、余命1カ月の利用者の希望を福祉用具で叶えた。
昨年、余命1カ月の診断を受けたがん末期の男性利用者Aさんを担当することになった笠目さん。担当ケアマネジャーは終末期なども積極的に引き受ける居宅介護支援事業所に所属しており、笠目さんもそのケアマネジャーの依頼で終末期の利用者をこれまで何人も担当してきた。
ただ今回の相談内容は、痛みの緩和や急激な状態変化に備えたいといったものではなく、「福祉用具を使って離床を促し、Aさんに窓からの景色をみせられないか」という依頼だった。ケアマネジャーの話によると、Aさんは60代の若さで余命宣告を受けたが、介護者である奥さんととても穏やかに暮らしていたという。
そんなAさんのどうしても叶えたい願いが「窓から外の景色をみたい」だった。元々介護ベッドや車いすはあったが、大柄なAさんと介護者の奥さんとの体格差が大きく、抱え上げで移乗させることはできない。退院後はほとんどベッド上で過ごしていた。奥さんも、夫の願いを何とか叶えてあげたいという気持ちでいた。
笠目さんは「離床を促して窓からの景色をみる」を目標にリフトの導入を提案した。Aさんの部屋はそれほど広くなかったが、据置型のリフトなら設置できることを確認。あわせて車いすへの移乗スペースや動線も見定めた。いつ急変してもおかしくない終末期はスピードが勝負。すぐにデモの日程を決めた。
まずは別室でスリングシートの付け方やストラップのかけ方を、Aさんに代わって笠目さんを相手に練習してもらった。難しいイメージがつきまとうリフトの操作。自信がつくまでひとつひとつ確認しながら練習を重ねた。
慣れた頃、実際に笠目さんが見守る中、Aさんをリフト移乗してもらう。吊り上げられたAさんは「ブランコみたいだ」と笑顔で、普段とは違う視点を楽しんでいる様子だった。そして、車いすで窓のそばへ向かうと、念願だった「いつもの風景」をしみじみかみしめていた。
後日、笠目さんが電話で様子を尋ねると、「一人でも無事にリフトを使って、主人を車いすに移乗できました!」と奥さん。心から喜んでいる様子に笠目さんもとても嬉しくなったという。
残念ながら、リフト導入から数日後にAさんは他界。リフトを引き上げる際、奥さんから「ほんの数回でしたが、望みを叶えてあげられた。本人もとても喜んでいました。ありがとう」と感謝を述べられた。
リフトの導入が数日遅れていたら、Aさんの願いは叶わなかったかもしれない。依頼から導入までの速やかな対応がポイントとなった。
「お亡くなりになられたのはとても残念でしたが、福祉用具を通じて、Aさんやご家族に喜んでもらえたことが今も心に残っています」(笠目さん)
奈良営業所 笠目 妙子
提供元:シルバー産業新聞 2020.11.10