連載 豊かさを届ける福祉用具サービス
「生活の中で大事にしているもの」を見極める
福祉用具大手ヤマシタ(静岡県島田市、山下和洋社長)の「豊かさを届ける福祉用具サービス」をテーマに現場の実践を紹介する本連載。福祉用具プランナーなどの資格も持つ同社・名古屋ショールームの堀部正隆さんは、利用者が望む暮らしを実現するため、入念なアセスメントにこだわる。時に本人さえ気づいていないニーズを掘り起こし、それを叶えるサービスに繋げる。
堀部さんが入社5年目の頃、担当したAさん。要介護5で寝たきりのため、退院にあわせて特殊寝台、エアマットレス、車いすなどを導入した。175㎝で体格のよいAさんに対して奥さんはとても小柄な方。介護負担を軽減するため、ケアマネジャーからは訪問介護やショートステイなど、さまざまな提案がされたものの、福祉用具以外では結局デイサービスのみの利用となった。奥さんが直接口にすることはなかったが、堀部さんは「自分でAさんの介護をしたいのではないか」と感じた。
しかし、奥さん一人ではやはり負担が大きく、デイサービス利用の準備の支援として、訪問介護の利用も決まった。それに併せて、堀部さんは移動用リフトの導入を提案。移乗時の安全確保と負担軽減を目的とした提案だったが、堀部さんは「奥様にも使ってもらえれば、より二人が理想とする生活に近づけるかもしれない」と考えていた。
堀部さんの予想通り、提案に誰より乗り気だった奥さんは、懸命に操作を覚えようとした。「初めて扱う方にとって、リフトの操作は『難しそう』というイメージがつきまといます」と堀部さん。やる気を削いでしまわないように、何度かに分けて無理なく操作を覚えてもらうよう工夫し、デイサービスに送り出す練習も奥さんが自信を持てるまで繰り返した。奥さんの頑張りと熱心なサポートが実を結び、デイサービスだけでなく、Aさん夫妻は車いすで散歩にも出かけられるようになった。奥さんとともに、Aさんの表情も以前より明るさを増していた。
「特訓」ですっかり打ち解けたころ、奥さんにリフトの導入に前向きだった理由を尋ねてみると、予想通り、「主人の介護は、できる限り私がしたかった。リフトを使えるようになれば、主人と外へ出かけることもできると思った」と打ち明けてくれた。また「慣れない操作に戸惑ったけれど、堀部さんが懸命に指導をしてくれたので諦めずに頑張ることができた」と感謝された。「ご利用者や家族の方が何を大事に生活されているのか。それによって、提案する福祉用具も支援の内容も変わってくるのだと学びました」と堀部さん。
以来、アセスメントの際、「どのような生活がしたいか」を必ず聞くように心がけている。ただ初めて介護が必要になった状態で、なかなかこの先のイメージを持てない人も多い。そうした時は、これまでの生活歴を尋ねると、ポツポツと語り出してくれ、その人のパーソナリティが見えてくるという。そこから「生活の中で大事にしているものが何か」を一緒に考える。「これからも、望まれている暮らしに近づけるよう、多様なニーズひとつひとつにしっかり向き合い、寄り添った支援にこだわっていきたいです」(堀部さん)
名古屋ショールーム 堀部 正隆
提供元:シルバー産業新聞 2020.09.10