連載 豊かさを届ける福祉用具サービス
「相談しやすさ」も大切な専門性
福祉用具大手ヤマシタ(静岡県島田市、山下和洋社長)の「豊かさを届ける福祉用具サービス」をテーマに現場の実践を紹介する本連載。今回は、港営業所の福祉用具専門相談員・相磯友里さんが日々意識して取り組んでいるという「本人や家族が気軽に相談できる関係づくり」について聞いた。福祉用具を十分に活用してもらえるかどうかは、使う側の気持ちによって大きく左右される。より的確な提案に繋げるために、「相談のしやすさ」は福祉用具専門相談員の大切な専門性だという。
相磯さんが福祉用具専門相談員として現場について1年が経過したころ、難病のALSを抱えた女性利用者Aさんを担当することになった。Aさんは54歳とまだ若く、20代の娘さん、70代の父親と同居していた。
相磯さんが常に意識しているのが、気軽に相談してもらえる福祉用具専門相談員であること。「製品の知識だったり、わかりやすく説明したりする力ももちろん大切ですが、気軽に相談してもらえる関係をつくり、ニーズをしっかりと引き出していくことも福祉用具専門相談員の大事な専門性ではないでしょうか」と説明する。
普段から相手をよく観察し、あまり堅苦しくなりすぎないように距離を縮めていく。「天気や出身地など、とりとめのない雑談の中で、その人のパーソナリティが見えてくることも少なくありません」。
Aさん一家ともそうして信頼関係を築き、Aさんは人間関係のデリケートな悩みも相磯さんには打ち明けてくれていたという。
一方、Aさんの病状は急速に進行していった。部屋では、排泄の動作を減らすために、ブランケットをスカートのように巻いて生活していたが、その姿を「ヘルパーや家族に見られるのが嫌だ」と相磯さんだけには話してくれた。
自宅のトイレが車いす移乗に適さず、ポータブルトイレの導入が決まった際、相磯さんはAさんからの相談を思い出し、移乗ボードを使って一人でベッドからポータブルトイレへ移乗することを提案した。配置を工夫し、また練習にも付き添って、人に見られることなく一人で排泄を行えるよう環境を整えた。その結果、Aさんも自信が付き、以前よりも家族との会話も増えていった。
利用者や家族から寄せられる相談は業務以外のものも多い。「シニア向けスマホの設定はもうお手の物です」と苦笑いする相磯さん。わかりやすくメモにまとめて渡したり、詳しい身近な人に聞いてみたりと、「もちろん限界はあるけれど、せっかく頼りにされているのだから、専門外のことでも多少のレスポンスは返せるように心がけている」という。
「ニーズに的確に応えるためには、得られる情報は多いほうがよい。これからも、『相談のしやすさは大切な専門性』をモットーに、気軽に相談してもらえる関係に向けたアプローチを続けていきたいです」。
港営業所 相磯 友里
提供元:シルバー産業新聞 2020.08.10