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高齢者の口腔ケアとは?手順やトラブル対処法まであわせて解説
高齢者に適切な口腔ケアをするためには、その目的や注意点を理解することが大切です。
この記事では、口腔ケアの重要性や効果について解説します。口腔ケアの具体的な手順や注意点もあわせて紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
口腔ケアとは
口腔ケアとは、歯磨きによる口腔内の清潔保持だけではなく、咀嚼や嚥下など口腔機能の向上させるトレーニングを含めたケアを指します。
麻痺や認知症によって、自分で口腔ケアができない高齢者には、必ず介助によるケアを実施しましょう。
加齢や病気によって、口腔ケアが必要になる高齢者は多くなる傾向になります。例えば、食事中によくむせる方や口臭が気になる方は注意が必要です。また、義歯を長時間外さない方も意識してケアをすることが大切です。
口腔ケアの主な内容は下記のとおりです。
【口腔ケアの内容】
- 歯科検診
- 口腔清掃
- 義歯の手入れ
- 咀嚼や嚥下トレーニング
- 口周りや歯肉のマッサージ
- 口臭や口腔内の乾燥を予防
口腔の健康状態はさまざまな病気と関係があるといわれており、近年ではその重要性が注目されています。
自身でおこなう毎日のケア(セルフケア)が基本ですが、歯科医や歯科衛生士など専門家による指導(プロフェッショナルケア)を組み合わせることで、より効果的なケアが期待できます。
口腔ケアの目的
口腔ケアには、虫歯や歯周病予防などの清潔保持を目的とした「品質的口腔ケア」と、口周りのマッサージや咀嚼・嚥下機能のトレーニングを目的とした「機能的口腔ケア」の2つがあります。
それぞれの口腔ケアの目的は次のとおりです。
【品質的口腔ケアの目的】
・口腔内トラブルの予防
・虫歯や歯周病などの予防
【機能的口腔ケアの目的】
・会話機能の向上
・咀嚼機能の維持や向上
口腔ケアは、虫歯や歯周病・口臭などのトラブル予防だけではなく、咀嚼や嚥下機能面も重要です。口腔機能の訓練をすることで、咀嚼や嚥下機能の維持・向上を目指し、誤嚥性肺炎や感染症の予防につながります。
さらに、口周りのマッサージや発音トレーニングを取り入れることで、会話機能の改善も期待できる点も、高齢者が口腔ケアをおこなう目的のひとつです。
口腔ケアによる効果
口腔ケアには口腔内の影響だけではなく、そのほかにもさまざまな効果があります。
口腔ケアによる効果は次のとおりです。
【口腔ケアの効果】
- 口臭予防
- 口周りの動きの改善
- だ液の分泌を促進
- 認知症予防
会話時の口臭が気になる方が多く、口腔ケアによる口臭改善は、会話時のストレスを軽減できるかもしれません。
また、咀嚼による刺激は認知症の予防につながるといわれており、口腔ケアで咀嚼機能を向上させることは脳を活性化させる観点からも重要です。
だ液の分泌が促進されると、口腔内の粘膜保護や清潔保持のほか、発がん予防の効果もあると報告されています。
口腔ケアが重要な理由
口腔ケアが重要な理由は次の5点です。
- 誤嚥性肺炎や感染症リスクの軽減
- 虫歯・歯周病リスクの軽減
- 栄養面の改善
- 認知症予防
- コミュニケーションの改善
口腔機能の維持は、健康な生活を送るために必要不可欠です。高齢者の場合、口腔機能の低下によって、誤嚥性肺炎や感染症にかかるリスクが高まります。
誤嚥性肺炎とは、食べ物や飲み物・だ液などが誤って気管に入り、そこに含まれる細菌が肺で炎症を起こすものです。口腔ケアをしていれば、万が一、気道に入った場合でも、重傷化する可能性は低くなるでしょう。
健康で元気な高齢者ほど歯の残存数が多く、よく咀嚼できている傾向があり、口腔ケアは軽視できません。
2016年におこなわれた「歯科疾患実態調査」では、80歳以上で自分の歯が20本以上ある状態(8020)の人は51.2%で、前回調査時の40.2%よりも増加しています。
高齢になるほど口腔管理が難しくなるため、早いうちから口腔ケアにより自身の歯の喪失を防ぐことが重要です。虫歯や歯周病を予防することで、歯の健康が保たれ、食事を痛みなく楽しめるでしょう。高齢者になると入れ歯の不具合や痛みで咀嚼できなくなり、結果として栄養状態も悪くなります。なんでも噛んで食べられると、食欲が湧いて、栄養バランスも改善されるでしょう。
また、噛むことは、脳の活性化させると考えられており、認知症予防にも役立ちます。口の周りの動きが改善されると、発話や滑舌も良くなり、だ液の分泌改善は口臭予防にもなります。気兼ねなくおしゃべりも楽しめるため、コミュニケーションが活発になるかもしれません。
このように、介護の世界でも口腔ケアは重要視されています。
出典:厚生労働省「平成28年歯科疾患実態調査」
口腔ケアのやり方
口腔ケアをおこなう際の準備や手順を確認していきましょう。
観察が必要な項目もあわせて紹介します。
口腔ケアの事前準備
口腔ケア時に準備する道具は次のとおりです。
【準備する道具】
- 手袋
- 歯ブラシ
- 入れ歯専用歯ブラシ
- デンタルフロス
- 粘膜用ブラシ
- 舌ブラシ
- コップ
- ガーグルベースン(うがい受け)
- ソフトガーゼ
- スポンジブラシ
- 口腔用ウェットティッシュ
道具のほかにも、これから口腔ケアをおこなう要介護者の情報や口腔状態を事前に確認しておきましょう。
道具の準備が整っても、いきなり始めるのではなく、ケア内容や手順を説明しましょう。口腔ケアを受ける方が安心できるように、同意を得てから進めます。
同意を得られたら、誤嚥を防ぐために姿勢を整えます。体を起こし、必要に応じて膝の裏にクッションを入れるなどして、なるべく楽な姿勢になるように配慮しましょう。
口腔ケアの手順
基本的な口腔ケアの手順を説明します。
【口腔ケアの手順】
- うがい
- 水分保湿
- 歯ブラシで掃除
- 口腔内清拭
- 舌の汚れ除去
- うがい
- 保湿薬の塗布
1.うがい
まず、水でうがいをおこない食べ物のかすや汚れを落とします。可能であれば左右の頬を膨らませるようにブクブクと動かし、吐き出させましょう。
2.水分保湿
口が乾燥している場合は、事前に唇や口腔内を少し水分で湿らせます。湿らせたソフトガーゼや専用スポンジブラシの使用がおすすめです。
3.歯ブラシで掃除
歯ブラシで歯を掃除します。歯磨きはなるべく自分でできるように促し、できない部分を介助するようにします。電動歯ブラシを活用するなど、自分でできる部分を増やすことが大切です。
入れ歯(義歯)の場合は口から外し、義歯用の歯ブラシで磨きましょう。入れ歯を排水溝に落とすのを防ぐために、水をためた洗面器の上でおこなうのがおすすめです。
入れ歯を磨く際、研磨剤で義歯を傷つけることを防ぐため、専門の歯磨き粉を使用しましょう。寝る前など長時間使用しないときは、義歯洗浄剤につけ置きするとにおいや汚れが落ちやすくなります。
4.口腔内清拭
口の中を拭き取るときは、口腔用ウェットティッシュで歯や歯茎・粘膜を清拭します。歯茎や頬の内側などは、優しくマッサージするようにおこないましょう。
5.舌の汚れ除去
舌が汚れている場合は、舌ブラシで優しく汚れを除去します。なかには舌に白い苔状のものが付着している方もいるかもしれません。これは「舌苔(ぜったい)」といい、口臭の原因になるといわれています。このとき、ケアを受ける方が苦しくならないように、様子を見ながら丁寧におこないましょう。
歯磨きや舌の清掃時に頬のストレッチをしておくと、口を動かしやすくなります。歯ブラシや口腔用スポンジを使って内側から外側へ押し広げたり、手のひらで口周辺をマッサージしたりすると口腔機能の改善が期待できます。
6.うがい
最後にうがいをして残った汚れを除去します。仕上げに洗口液を使うとさっぱりします。うがいが難しい場合は、口腔用ウェットティッシュで優しく拭き取りましょう。
7.保湿薬の塗布
口腔ケア終了後は、唇や口の周り・口腔内の乾燥を防止するために、必要に応じて保湿薬を塗布します。
ご自宅での介護に関してお困りのことがございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。
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口腔ケア時の観察項目
高齢者の口腔ケアでは口内状態の観察をおこないます。主な観察項目は次のとおりです。
【口腔ケアの観察項目】
- 口臭
- 唇・口周り
- 舌・粘膜
- 歯の状態や義歯の有無
- 歯・義歯の汚れ具合
- 歯肉の状態
作業を始める前に、ケアを受ける方の体調を必ず確認しましょう。このとき、口臭や唇の状態もあわせてチェックします。
もしグラグラ揺れる歯がある場合、誤嚥するおそれがあるため歯科医の診察を受けましょう。
唇や口の周り、口腔内の乾燥状態を確認します。乾燥が強い場合は出血する可能性があります。
舌や歯肉は、汚れや乾燥の状態、赤み、出血、痛みがないか観察します。義歯や補綴(ほてつ)物がある場合は、その周囲の状態も丁寧に観察しましょう。
補綴物とは、歯科治療の際に欠けてしまった歯を補うための詰め物です。補綴に使われる素材は、金属やセラミックなどさまざまな種類があります。
口腔ケアの注意点
高齢者の口腔ケア時に注意すべきポイントは次のとおりです。
【口腔ケアで注意するポイント】
- 丁寧なコミュニケーションを心がける
- 乾燥している場合は湿らせてからおこなう
- 誤嚥に注意する
- 体調に変化があった場合は中止する
- 口腔内に痛みや出血がある場合は無理におこなわない
- 義歯は外して掃除する
- 専門的ケアが必要な場合は歯科医に相談する
口腔ケアでは、要介護者の協力が必要です。スムーズに作業をおこなうためにも丁寧なコミュニケーションを心がけながら体調の変化に注意し、体調が悪くなった場合はすぐに中止します。
口腔ケア中の誤嚥防止のため、誤嚥しにくい体位を確保してから始めます。排出された、だ液や水分はガーゼで拭き取りましょう。
また、口腔内が乾燥している場合、無理にケアを進めると出血の原因になります。事前に口腔内を湿らせてから、口内掃除を始めましょう。
義歯は必ず外してから口腔ケアをおこないます。補綴物の周辺に異常がないか、同時に確認しましょう。
口腔内に赤みや出血、痛みがみられる場合は無理にケアをおこなわず、状況に応じて様子を見ます。専門家によるケア(プロフェッショナルケア)が必要な場合は歯科医に相談しましょう。
身体状況に応じた口腔ケアのポイント
要介護者の身体状況によって適切な口腔ケアの方法は異なります。
体の片側に麻痺がある場合は、要介護者の持つ機能をできる限り活用するために、麻痺のない側で協力してもらいましょう。本人によるケアが難しい場合や、磨き残しがある部分は介助をおこない対処します。体の状態に合わせた口腔ケアが重要です。
寝たきりの人へおこなう口腔ケアは、誤嚥を防止するため、なるべく体を起こした姿勢でおこないます。ただし、体をあまり起こせない場合は、リクライニング・ティルト式車椅子を使って、背もたれの角度を調整して無理のない姿勢でおこないましょう。
ポジショニングベッド 3モーター
ベッド上で口腔ケアをおこなうには、リクライニング機能と頸部の角度調整機能を搭載したベッドがおすすめです。こまかく調整できるタイプの場合、腹圧の軽減や嚥下機能の向上も図れるため、使用者の負担が少なく座位を口腔ケアが実施できるでしょう。
また、足もとの角度調整ができるタイプのベッドの場合、姿勢のずれを軽減して安定した状態で口腔ケアがおこなえます。
マイチルトミニ3D リフトアップ機構付き エレベーティング仕様
※フット・レッグサポートがスイングアウト仕様になっているタイプもあります。
車いすで口腔ケアをおこなう場合は、小回りの利くタイプがおすすめです。洗面所周りでは、スペースが狭い場合が多く、車いすでは介助が困難になります。
また、ティルト式の車いすであれば、座面ごと角度をつけられるため、双方の負担が軽減されます。上記の商品は、安定した状態を保ちやすくなるだけでなく、スネークヘッドサポートで頭部を適切な位置で支えられることが特徴です。
総入れ歯の方でも口腔ケアは大切です。歯がないからといって口腔ケアを怠ると、免疫力の低下や感染症のリスクなど、さまざまな弊害が生じます。総義歯であっても丁寧な口腔ケアを心がけましょう。
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口腔ケア時に起こりやすいトラブルと対処法
口腔ケア時のトラブルを事前に防止するために、起こりやすいトラブル例と対処法をそれぞれ確認してみましょう。
トラブル例① 要介護者が口腔ケアを嫌がる
1つ目のトラブル例として、要介護者が口腔ケアを拒否ことが挙げられます。要介護者が認知症の場合には、思ったように口腔ケアができない場合もあるでしょう。
口腔ケアを嫌がる場合は無理に進めようとせず、いったん作業を中止します。その間に、口腔ケアを怠った場合のリスクや、口腔ケアによって得られるメリットを説明して様子をみてみましょう。
要介護者が認知症の場合は一度にすべての工程を説明するのではなく、各工程を1つずつ分け「次は歯を磨きますね」というように、具体的に伝え、次の工程に進むたびに説明します。
ケアが思うように進まない場合でも、焦らず対応しましょう。要介護者と目線をあわせてコミュニケーションをとるなど、安心できるような雰囲気づくりが大切です。
トラブル例② 口腔内を傷つけてしまう
2つ目のトラブル例は、口腔内を傷つけてしまうことです。とくに、口腔内が乾燥している場合は、傷つきやすいため注意しましょう。
高齢者の場合、口腔内に傷がつくと治りにくく、感染症のリスクが高くなるため、傷がつかないように丁寧におこなう必要があります。
口腔内の傷を防止するために、可能であれば事前にうがいをしてもらいます。うがいが難しい場合は、湿らせたガーゼやスポンジで湿らせるのがおすすめです。乾燥状態が強い場合には、口腔用保湿剤を塗布し、乾燥による傷を防ぎます。
口腔ケアは、優しい力でゆっくりと丁寧におこないましょう。出血してしまった場合は、清潔なガーゼやティッシュを出血部分にあて、しばらく押さえるとほとんどの場合止血できます。
トラブル例③ 誤嚥が起きる
3つ目に紹介するトラブル例は誤嚥です。排出される汚れや水分・だ液が気管に入り、誤嚥する可能性があります。誤嚥によって誤嚥性肺炎を起こすリスクがあるため注意が必要です。
誤嚥のリスクを軽減するために仰向けではなくなるべく座った状態で口腔ケアをおこないましょう。体の状態によって座った姿勢が難しい場合は、少しずつ背もたれを調整して、安定する角度で止めます。
それぞれの体の状態にあわせて、楽な体勢や安定する姿勢でおこなうようにしましょう。だ液や水分が出た場合には、誤嚥を防ぐためにこまめにガーゼで拭き取ってください。
口腔ケアに役立つ資格
2014年に開始された、介護口腔ケア推進士という資格があります。介護場面で口腔ケアの知識は、要介護者の生活の質(QOL)を高めるうえで重要です。
介護口腔ケア推進士の試験はどなたでも受験でき、合格すれば認定証が発行されます。また、認定通信教育講座であれば、試験会場に行かずに自宅から取得が可能です。
介護口腔ケア推進士には上級があり、試験に合格し研修を受講した方は介護口腔ケア推進士上級を受験できます。
介護口腔ケア推進士を取得するメリット
介護口腔ケア推進士の資格取得によって得られるメリットはさまざまです。口腔ケアについての正しい知識を得られるため、家族を介護する際に役立ちます。
介護現場では、介護口腔ケア推進士の資格取得によって説得力が増すほか、資格保有者としてのアピールにもつながるでしょう。
介護業界では口腔ケアへの関心が高まっているため、今後も注目される資格になると考えられます。
口腔機能をAIで分析できるツールをご紹介!
高齢者の口腔機能を、AIがわかりやすく分析して可視化できるツール「トルト口腔分析AI」をご紹介します。スマートフォンで特定の音節を繰り返し発音する動画を撮影し、AIがその音声を「速さ」や「発音」などで分析するものです。
これらの機能を活用すれば、高齢者の口腔機能の状態を可視化できるため、その人の状態を適切に把握できるでしょう。分析結果は、コミュニケーションシートに表示され、本人や家族、ケアマネージャーに説明が行いやすくなります。客観的な評価と結果の共有がしやすいため、介護サービス事業所や医療機関で役立つといえるでしょう。
参考:トルト口腔分析AI
まとめ
高齢者の口腔ケアのポイントは次のとおりです。
- 口腔ケアによってさまざまなメリットがある
- 口腔ケア時に口腔内の状態をよく観察する必要がある
- 口腔ケアを受ける方の身体状態に合わせたケアが重要
口腔ケアをおこなう目的や重要性、健康に与える影響は介護業界でも注目されています。口腔ケアの種類や手順、注意ポイントを紹介しましたので、ぜひ参考に実践してください。
口腔内の健康維持には、さまざまなメリットがあります。セルフケアだけではなく、プロフェッショナルケアも併用しながら日々のケアをおこないましょう。
ご自宅での介護に関してお困りのことがございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。
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渡口 将生 (WNゆづる)
介護支援相談員兼ライター
介護福祉士として10年以上介護現場を経験。その後、介護資格取得のスクール講師・ケアマネジャー・管理者などを経験。介護の悩み相談ブログ運営中。NHKの介護番組に出演経験あり。現在は、介護相談を本業としながら、ライター活動をおこなっており、記事の執筆や本の出版をしている。また、マーケティング事業として起業サポートやコンサル業もおこなっている。