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一人で行う移乗介助の基本テクニック
一人での移乗介助は、力任せではなく体の使い方と準備で決まります。環境を整えれば、介助者も要介助者も無理なく安全に移れるでしょう。ここでは手順を分解し、移乗を安定させる具体策と介護用品の活用法を整理します。
安全の前提条件
移乗の成功は事前準備7割・動作3割と言えるほど、整える力が重要です。足元・高さ・角度・合図の四点がそろえば、必要な筋力は最小限で済むでしょう。
環境整備・声かけ
- 高さ合わせ:移る先は元の座面より1〜2cm低く設定すると滑り込みやすいです(ベッド昇降機能やクッションで調整)。
- 角度:いす・車いすはベッドに対し30〜45度で斜め付け。ひじ掛けは移乗側を外す/跳ね上げると近寄れます。
- 障害物排除:足元のマットや電源コード、床の水濡れは転倒要因です。必要物品は手の届く範囲へ。
- 声かけと合図:「次に何をするか」「いつ動くか」「止まる合図」を短い言葉で共有します。(例:せーの、で立ちます/止まります)
足元とブレーキ確認
- 履物:滑りにくい靴下・室内履きで踵が抜けないものを。濡れた床は都度拭き取ります。
- ブレーキ:車いす・シルバーカー・ベッドのキャスターは必ずロック。フットレストは跳ね上げ、つま先が引っかからない状態にします。
- 介助者の足位置:ご本人のつま先のやや外側にスタンスを取り、前後に広めの支持基底面を確保します。
移乗動作の分解
「起きる→座る→立つ→向きを変える→座る」の連鎖を切り分け、一手順ごとに安定を確認して進めます。各局面でのコツを押さえると、失敗が減るでしょう。
ベッド→椅子・椅子→ベッド
- 起き上がり:膝を立て、横向き→両手でベッドを押して上体を起こし、座面に手をついて安定します。目線はやや前方へ。
- 前さがり姿勢:足底全接地、膝は肩幅。骨盤をやや前起こし、胸を開きます。
- 立ち上がり:「せーの」で重心を前へ→お尻を軽く浮かせる順。介助者は骨盤・肩甲帯を広く面で支え、引っ張らず前方への重心移動を誘導します。
- ピボット(向き換え):小さく足踏みして方向転換。すくみが出る方は足元に目印(テープ等)やリズム声かけを入れると動き出しやすいです。
- 着座:後方に手を回さず、膝を前に送りながらゆっくり下ろすイメージで。座面接触を確認してからお尻を下ろします。
※椅子→ベッドは逆順です。ベッド高さは着座後に再調整すると次の動作が安定します。
トイレ・車いすへの移乗
- トイレ:便座の高さが低いと立ち上がりに苦労します。補高便座や手すりで押せる支点を確保。衣類は事前に半分まで下ろし、動作の分断を減らします。
- 車いす:移乗側のひじ掛け・フットレストを跳ね上げ、できるだけ近づけるのが基本。ブレーキロック後、座面へ深く座る→骨盤前傾→立位→ピボット→着座の順で進めます。
- 介助者の体の使い方:背中を丸めず、股関節から折るヒンジ動作で前傾。腕力ではなく重心移動と体幹で誘導します。
- 滑走補助:摩擦が強い衣類・座面には滑り布を一時的に使うと負担が減ります(下記用具参照)。
移乗を支える介護用品
滑りやすさを適度に確保し、「持ち上げない移乗」を実現する補助具は、介助者の腰痛予防にも有効です。以下はヤマシタすぐきたに掲載している商品の一例です。
商品名 | 主な特長 | サイズ | 1割負担時のレンタル価格 |
---|---|---|---|
イージーグライド M | 座ったまま乗り移ることができる | 幅33×長さ60×厚さ0.5cm(Mサイズ) | 136円//月 |
フレックスボード | 寝た状態のまま乗り移ることができる | 長さ110×幅50cm | 306円//月 |
まとめ
一人での移乗介助は、事前準備を整え、動作を分解して進めるのが近道です。介助者は体幹と重心移動を使い、持ち上げずに滑らせる意識で。滑走用具を適切に使えば、負担はさらに減るでしょう。手順の見直しと環境整備を重ね、安心して続けられる移乗を行いましょう。