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口腔マッサージの基本と手順
食べる・飲む・話すを支える口腔の働きは、日々のケアで大きく変わります。口腔マッサージは唾液分泌を促し、嚥下や発声の準備、清潔保持にも役立つケアです。家庭でも続けやすいマッサージについて整理しましたので、無理なく心地よい刺激量で実施しましょう。
目的と効果
口腔マッサージは、口腔内外のやさしい刺激で機能を引き出し、清潔と安楽を両立させるケアです。
唾液分泌・嚥下準備・清潔保持
頬粘膜や唾液腺周囲を丁寧に刺激すると唾液分泌のきっかけが生まれ、食べ始めのむせを減らす準備になります。潤いが保てると食渣が残りにくく、清拭やブラッシングの効率も上がるでしょう。嚥下前の「口ならし」として行えば、口腔ケア→軽いマッサージ→摂食のリズムが整います。
口周囲筋の緊張緩和
口輪筋・頬筋・舌の動きが硬いと、食塊形成や発声が不安定になります。温かい手で外側から円を描くように触れ、力を抜く方向へ誘導することで、不快感やこわばりを和らげられるでしょう。
事前準備
安全で清潔な環境づくりと、短時間で終えられる段取りが成功の鍵です。
準備・体位
石けんと流水で手洗い後、使い捨て手袋を着用します。体位は座位〜半座位(30〜60度)が基本です。頭部が前へ落ちないよう枕やタオルで支持し、顎を軽く引いた姿勢を意識します。タオル・スポンジブラシ・口腔用保湿剤・使い捨て鏡(必要に応じて)を手元に並べ、動線を短くしておきます。
保湿ジェルの扱い
口唇・頬粘膜・舌背の乾燥が強い場合は、口腔用保湿ジェルを少量指に取り、薄く伸ばします。塗布は「外→中」の順で、むせやすい方には一度に多量を入れないのがコツです。
手技の流れ
外側→内側の順に、弱い刺激から始めて様子を見ながら進めます。痛み・強い拒否があれば中止します。
唇・頬・舌・軟口蓋
①唇:口角から中央へ向けて、上下それぞれを軽く摘まむ→離すを数回。乾燥部は薄く保湿。
②頬:頬骨の下から下顎角へ、円を描くように外側から撫で下ろします。次に口腔内側(頬粘膜)をスポンジでやさしくストローク。咬合面に指を入れないよう注意します。
③唾液腺ポイント:耳前(耳下腺)、顎下(顎下腺)、舌の付け根側(舌下腺)を、指腹で各5〜10回、小さく円を描きます。
④舌:舌尖→舌背→舌側縁へ、スポンジで前から奥へは行わず奥から前へ軽拭。舌を出しにくい時は、唇の保湿と口角マッサージで可動域を先に広げます。
⑤軟口蓋:嘔吐反射が出やすい部位です。スポンジで触れすぎない範囲を保ち、無理に刺激しません。嚥下準備としては、「いー」「うー」などの発声や軽い鼻呼吸誘導でも十分です。
むせ・痛み時の中止判断
強い咳・涙目・顔色変化・胸苦しさ・出血があれば即中止し、頭部を前屈、口腔内の物を除去します。落ち着いたら体位を整え直し、水分やジェル量、刺激の強さを見直します。慢性的な痛み・口内炎がある場合は、触れない部位を明確化し、短時間で区切るとよいでしょう。
記録と頻度
小さな変化を拾い、次回の質を上げるためのメモを残します。
前後の変化と次回の工夫
実施時間、体位、用いた道具、反応(唾液量・むせ・拒否感)、仕上がり(乾燥の程度・残渣の有無)を簡潔に。次回は「前回より保湿を先に」「頬内側は回数半分」のように一つだけ改善点を設定すると続けやすいです。
家族との共有
口腔ケアは継続が成果を生みます。家族・介護者間で方法と禁忌を共有し、誰が・いつ・どの順番で行うかを決めておくと、ばらつきが減りトラブルを防げます。訪問介護・看護のある方は、記録用紙や連絡帳で情報を回すと良いでしょう。
まとめ
口腔マッサージは、清潔・潤い・やさしい刺激・安全姿勢の4点が基本です。外側から内側へ、弱い刺激から短時間で行い、むせや痛みがあれば迷わず中止します。記録で小さな成功を積み重ねれば、嚥下や会話のしやすさ、食事前後の安楽につながるでしょう。