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施設ケアプラン例で見る目標設定の考え方
施設ケアプランは、利用者の暮らしを「安全・安心・納得」でつなぐ設計図です。現状の課題を見立て、到達したい姿を言語化し、日々のサービスに落とし込むことで、ケアが個別性を持ちます。
ここでは構成要素と事例、家族との共有方法までをまとめて解説します。
ケアプランの構成
計画は「情報収集→課題分析→長期目標→短期目標→サービス内容→モニタリング→見直し」の循環で運用します。紙面を埋めることが目的ではなく、現場で再現できる具体性が肝要です。
課題分析・長期目標・短期目標
課題分析は医学的情報・ADL/IADL・認知/情緒・生活歴・環境を多面的に統合します。
長期目標は6〜12か月の方向性を示し、「転倒なく施設生活を継続」「食事を自立で完了」など抽象度はほどよく。
短期目標は1〜3か月で検証可能な尺度で記述し、「昼食時に自力摂取8割」「週3回の歩行訓練で廊下20mを介助最小で」など頻度・量・条件を明確にします。達成/未達の判定基準を先に決めておくと評価がぶれにくいでしょう。
サービス内容・モニタリング
サービスは目標から逆算して組み立てます。例として、口腔の短期目標が「食後の残渣減少」であれば、食形態・摂食姿勢・口腔ケア手順を具体化し、誰がいつどの順で介入するかを記載します。
モニタリングは日々の経過記録だけでなく、月次カンファレンスで目標との距離を測り、必要なら条件設定(時間帯・人・場所)を調整します。
事例から学ぶ
典型ケースを切り口に、目標の立て方とサービスへの落とし込み方を例示します。実在の個人を想起させないよう一般化した記述に留めます。
ADL維持・口腔・排泄
【事例A】下肢筋力低下が進行するも、移乗は見守りで可能。長期目標は「ADL維持で転倒を防止」。短期目標は「午前中に歩行器で廊下10m×2本、週4日」。サービスは理学療法視点の歩行練習に加え、居室内の動線整理と履物の見直しを組み合わせます。口腔では「食後の頬袋残渣を軽減」を掲げ、45〜60度の摂食姿勢・二度飲み・食後のスポンジ清拭を手順化。排泄は「トイレ誘導で日中2回の成功」を目標に、水分摂取記録・時間帯誘導・衣類の前開き化をセットで運用します。
認知症ケア・生活リハ
【事例B】夕方不穏と帰宅願望が強い。長期目標は「不安軽減と生活リズムの安定」。短期目標は「16〜18時の離席回数を1時間あたり1回以内」。サービスは回想法・軽作業・見通し提示を同時間帯に集中配置し、居室前の掲示でスケジュールを可視化。生活リハでは、本人の嗜好(園芸・洗濯物たたみ等)を毎日10〜15分組み込み、役割を持てる場面を増やします。評価は離席回数・声かけ回数・表情の観察で定量/定性の両輪を用います。
家族との共有
家族の理解と協力は計画の実効性を高めます。情報はわかりやすく、タイムリーに、繰り返し伝えることが重要です。
連絡方法・合意形成
面談・電話・連絡帳・オンライン面談など複線化した連絡手段を用意し、変更点は理由と期待効果をセットで説明します。家族の希望と施設のリスク管理が衝突する場面では、目標→代替案→評価方法の順に整理し、書面で合意を残すと後の調整がスムーズです。
見直しのタイミング
定期(1〜3か月)に加え、状態変化・感染症流行・季節要因などのイレギュラー時は臨時カンファレンスを即時開催します。短期目標が連続達成なら難易度を段階的に引き上げ、未達が続く場合は条件設定を緩和するか、別の手段に切り替えます。評価指標は「数値」「頻度」「時間」「介助量」のうち、現場で測りやすいものを採用すると継続可能です。
まとめ
良いケアプランは、具体・測定可能・合意済み・期限付きという4要素を満たし、現場で再現されます。課題分析に基づく目標、目標から逆算したサービス、定期的なモニタリングと機動的な見直し、そして家族との丁寧な共有。これらを循環させることで、利用者の生活の質は安定し、スタッフの迷いも減るでしょう。短期目標の指標を一つだけ明確にし、評価の場をスケジュールに固定するところから始めてみてください。